大学紹介
Future Vision


学長インタビュー
10年後を見据えた三条市立大学の付加価値
2025.03.26
開学から現在までを振り返って
ものづくりの複合的な領域の原理・方法論を系統立てた教育研究に加え、技術を社会に実装するために必要となるマネジメントを通じて多角的な視点と柔軟な思考力を持つこと、つまり、「工学 × マネジメント × 創造性」によって、未来を創り出す「イノベーティブテクノロジスト」を育成することを目標に、4年間全力疾走してきました。
社会はダイナミックに動き、変化のスピードもかなり激しいと言われている時代にあって、いよいよ初めての卒業生を送り出す季節になりました。これまでを鑑みると、私たちがやってきたことは間違いなかったと思っています。その中でも、本学の大きな特色である産学連携実習(EBL:Experience-Based Learning)は、多くの地元企業が共感くださり、学生を受け入れていただきました。プロジェクト演習(PBL:Project-Based Learning)との協調によって、知識と経験が融合し、非常に効果的な学びが展開できていると考えています。
見えてきた課題
近年、世界全体がデジタルに向かっています。もちろん私たちも例外ではないので、デジタルをいかなる形で学びに追加するか、強化していくかを考えなければなりません。デジタルテクノロジーを取り入れる社会は、テクノロジーそのものも必要ですが、そのテクノロジーを社会にインプリメントして「モノ」にする、つまり価値を作り出すため、それに関わる教養も取り入れることが必要です。これまでの工学の教養とはまたちょっと違うものなのかなと私は思っています。
データサイエンスとデザイン思考の必要性
これからは、データサイエンスという教養がないと、デジタルテクノロジーに価値を見出すことはできないと思います。データサイエンスでデータが語りだし新しい発見や気づきが得られ、マネジメントと融合してテクノロジーに価値が生み出されていきます。価値を生むためのデザイン思考(design-thinking)もデータサイエンスによって強化されることでしょう。AI技術の急速な発展により進化した情報化社会は、アナログをただ変換しているわけじゃなく、新しい価値を作り出す社会です。最低限、データサイエンスとデザイン思考を今の学びに拡張する必要があると認識しています。この2つのボリュームやレベルをよく考えてインプリメントしていかなければなりません。
学び方のイメージ
成長分野であるデジタル分野の専門家は、日本国内いたるところにいるわけではありません。また、デジタル技術の進展によって、教員は最先端のテクノロジーも理解し、学際的で未来志向の学問を教授していかなければなりません。そうするとアカデミアだけではなく、企業とかシンクタンク、あるいは国際的な連携によって教員組織を構築していかなければならないと感じています。1人の専門家を複数の大学でシェアするようなこともあると思います。そうなってくると、学び方も工夫しなければなりません。オンライン(ICT)を必要に応じて最大限に活用して対面授業とオンライン学習を適切に組み合わせたハイブリッド型学習にするとかを検討していく必要があります。本学の場合、EBLとPBLは堅持しながら、新しい学問、新鮮な知識を入れていって、多様性とか素養を広げていく。こういったことをしっかりと用意しないと、私たちが目指している学びの付加価値につながっていかないと思っています。
研究の方向性(燕三条にあるからこそ)
それぞれの大学で様々な研究が行われていますが、本学で展開する研究というのは、実用的・商業化(commercialization)な研究です。日本の地域社会というとほとんどが中小企業です。その中小企業が潤う(monetize)、あるいは中小企業にポジティブなインパクトを与えることが必要で、そういった研究を強く推進していきたいと思っています。私たちが燕三条地域をロールモデルとして活動していくと、他の地域にも大いにそれを応用できます。ものづくりのまちで、高い技術力の中小企業が豊富にある燕三条地域に貢献できるということは、日本全国に貢献できるとほぼ同じです。したがって、私たちにとって燕三条地域というところはすごくいいところで、これから展開するデジタル分野の共有も含めて、エコシステム形成が加速されると考えています。
地域連携・地域貢献のために
我々は、燕三条地域に貢献するために誕生した大学と言っても過言ではありません。ありがたいことに、私たちは本当に地域の方や企業から応援していただいている大学です。これからもよい関係を維持し発展させるために、もっともっと地域と仲良くなりたいと思っています。仲の良さは往来の数に比例するので、 その数をどんどんと増やしていき、私たちも地域の当事者になり、地域の方も大学の当事者となれば、大学と地域が孤立しないで済みます。これは決して新しいことではなく、昔、日本にあったものをもう一回再現しようとしてるわけです。地域社会は「 貸し借り」で成り立っていたはずです。世の中が便利になって、コンビニとかスーパーとかができて、その「貸し借り」の文化がなくなって、いつか忘れ去られていってしまいましたが、地域コミュニティはそうじゃなかったはずですよね。そんなコミュニティを復活させるために、忘れ去られた私たちの遺伝子の中にあるものをちょっと刺激して呼び覚ましたいと思っています。そういった役割が私たちにあるし、地域社会を変える力を持っていると考えています。
学生に期待すること
デジタル技術の急速な発展や、持続可能性への意識の高まりなど、多くの変化によって産業構造は大きく変化する可能性があります。学生が社会の中核になった時にその時代の産業構造に彼らをフィットさせなきゃいけません。そのためにも学生に「賢い人財」になってほしいと思っています。トレンド掴んで将来を展望し、未来社会と自分をどうフィットさせるか考える力を身につけてもらいたいです。「賢い人財」になるためには、たくさんある自分の素質みたいなものを学生時代に見つけて、選択肢を増やしていくことが大切だと思っています。本学では早い段階から社会を経験できる産学連携実習のプロセスがあります。工学の専門知識・技術だけでなくマネジメントを融合させた教育に加え、これからはデータサイエンスとデザイン思考をインプリメントしていきます。サスティナビリティにも関心を高めていかなければなりません。そんな多様な学びにフォーカスポイントを少しずつずらしながら経験して、自分の素質を基盤とする選択肢を1つだけでなく複数準備できることが「賢い人財」になるために重要だと考えています。
クオリティの高い教育の実現
学生を「賢い人財」に仕上げるためには、多様な学びの中で学生の見る目をどれだけつくってあげられるかが重要だと思っています。この考え方は、今までの大学の人材育成とは少し異なるところかもしれません。教員は、その専門分野で認定を受けてきました。これからは、現状を理解して今までの学びを自分で考えて、バージョンアップさせて提供していかないと進化できません。クオリティの高い教育を提供するために必要なことです。そこにはこだわってやっていきたいと考えています。学びを支える職員も同様です。例えば、学生が産学連携実習で企業に赴く際に、どういう気持ちでどういうことを見て・体験して・考えてほしいかということは、事前にレクチャーしないとなりません。それをしないと学生はまだ若いので、ただ行って帰ってくるだけです。そこには社会経験もなければ学びも何も生まれません。企業の特徴特性を把握している職員が、学生の希望に応じてどんなオプションを提供できるか、それがクオリティの高い学びの実現に影響してくると思います。
これからの本学に、ぜひご期待ください。