PEOPLE
本学の産学連携実習協定先が感じる
産学連携実習とは―

株式会社玉川堂
秘書A.S様
真に実りのある産学連携実習を目指して
弊社では、お客様に工場をご案内し、鎚起銅器の製造工程を見ていただくことを業務の大切な軸としています。五感で工場の価値を体験して頂くことが目的です。銅を叩く鎚の音、炉の炎の熱や色、一心に金鎚を振るう職人の表情など、ものづくりの現場だからこそ生まれる「場の体験価値」が、燕三条地域が持つ歴史的・技術的価値を次世代に繋いでいくための資源そのものであるという、弊社社長の経営的視点から行っているもので、人の感性に触れる体験を大事にしていると言えます。
そうした中、弊社ではこれまで、ものづくりの持続・発展を願い、各大学からのインターンシップを受け入れてきました。学生と職人、大学と企業、それぞれが持っているリソース、あるいは課題というものを交換しあう産学連携の形を模索してきました。しかし、インターンシップの限定された時間の中では、物理的にも時間的にも十分なコミュニケーションがとりきれないという課題を感じておりました。
2021年(令和3年)4月、三条市立大学が開学。燕三条の地域資源を生かした学びの拠点となることに、大きな期待がありました。弊社社長は1年生に「燕三条リテラシ」という授業で登壇させていただく機会を得、シャハリアル学長との面談にてその思想や構想に深く触れる機会をいただき、学生からの質問に直接答える茶会の時間も設けていただくなど、対話の機会を得たことが土台となって、課題であった産学連携の在り方を吟味するに必要なコミュニケーションの時間を得ることができたと考えております。2年生は2週間、3年生は約4か月(16週間)と、限られた期間ではありますが、実際に開学2年目から現在に至るまで学生を受け入れてきて、学生と大学(研究機関)、そして企業が、互いが持つ資源や課題を共有しテーマを模索してきました。
実習では、企業の人員と時間が割かれます。受け入れ当初は、事前準備も含めて通常業務を圧迫する、指導と実績の予測がつかず、担当の職人に負荷がかかるなど、問題点もありました。でも、負担だけに目を向けて止めてしまっては、産学連携の関係性が育ちません。実習では、学生だけでなく社員の気付きにつながるような互いに学び合える場作りにするにはどうしたらよいかを考え続けています。

自分で感知し判断して、創造する力
2年生の2週間の実習では、着色のために銅の板に錫を塗って焼き付ける「金付け作業」と、一枚の銅板を鳥口という鉄の棒でできた土台に当てがい、金鎚で叩いて器状に成形する「打ち絞り」という体験をします。火や薬品も使いますので慎重に、目の前で起きていることを瞬時に判断し手を動かす。最初はうまくいきませんが、繰り返しやるうちに銅という素材の特性や、銅と錫が熱で合わさって何が起きるのかを感覚的に掴んでいきます。
実習の中で心がけているのは「自分で感じ、自分で考えてやってみること」。銅や錫という素材、熱、温度。五感への刺激に対し感性を働かせながら、体幹を維持し、銅板を扱いながら錫を塗り広げ均一にすることに全神経を集中させます。繰り返し身体を使って試行錯誤するうちに「ああ、こうすればいいのか」「こうしてみたらどうかな」という創造性が表れてくるんですね。玉川堂の工場、鎚起銅器の製造という環境で得られる体験は、感性そのものが全面に出てくる、原始的とも言える創造体験なのではないかと考えています。この体験を経て学生が何を感じ考えたかを実習の最後に振り返り、言語化し社員に向けて発表してもらうことで、産学連携実習の意義を相互に確認することを大事にしています。

実習が生み出す相乗効果
2024年度は2年生に加え、初めて3年生を受け入れました。内容はより開発に近いものをということで、弊社の「やかん」に使う取っ手の改良・開発に取り組んでもらいました。実は受け入れ前に社内で議論があったのです。4か月ものあいだ〝受け入れる〟というスタンスだと、「教えなければ、与えなければ」と負担になる。それでは本末転倒で、やるならば社内課題を題材としそこに取り組むことで、大学と企業の資源を持ち寄って何ができるのかの実績とすべきだと。そこで「弊社にとっての具体的な課題を実習のテーマとする」と立ち位置を変えました。
今回、開発担当者と学生とのやり取りを見ていて、産学連携実習と大学4年間のカリキュラムについて、その意義が理解できました。学生の視点は選択肢の一つとして広がりを持ち、社員との間で活発な意見が交わされました。CADでイメージしたものをどう具現化するかというテーマで、湯沸の持ち手の構造面の可動性や安全性、素材の性質やコスト、組立における限界など、相互にアイデアの交換が行われ、そのことが互いの意欲向上にも繋がりました。
3年生の実習では今後も、学生の視点や資質をどう会社の課題に繋げ、創造に繋げるかを問うていきたいです。「学生と一緒にやる」というスタンスになるだけで、学生にも企業にも残るものが違ってくるというのが実感としてあり、これは4ヶ月の研修の収穫の一つと言えます。

産学連携の恩恵と、人材への期待
一昨年、産学連携実習でのやり取りを通じて、弊社の新商品である急須の蓋のつまみの試作品を3Dプリンターで作成出来ないかを担当教授にご相談しました。試作品作りは、製品の形を決める上で精度を上げながら確認を要する工程で、木工所に頼めばそれなりのコストがかかりますが、イラストレーターで作成したつまみのデータを大学の3Dプリンターで出力していただき、急須の本体に取り付けてバランスを検証し、最終デザインを決めることができました。このように、最終的には人の感覚で仕上げていく工芸品でも、その過程において、デザイン上の選択肢を検証する方法として機械を用いることは、コスト面でもデザインのプロセスに於いてもメリットがあると思いました。人の感覚や感性を科学し数値化や視覚化することは、伝統工芸品である鎚起銅器の技術を継承し次世代に繋げる上で今後より求められることであり、何を守り何を変えるのかを考える契機にもなると思います。
「趣味を極める」。これは玉川堂のブランド理念の一つです。例えば日本ではお茶を飲むという文化がありますが、その起源はどこなのか?お茶は人間にとってどんな価値があるのか、道具の使い勝手や所作の意味など、その事柄の本質を深く知ること。その上で、鎚起銅器の製造技術と創造性を駆使して一つの道具として形にする。その生き方が玉川堂の本質を体現していくのだという弊社社長の思想が込められた言葉です。こうした理念のもと、産学連携実習という時間軸の中で、研修内容を遂行するというだけでなく、玉川堂の本質に触れるという体験も今後デザインしていけたらと思っています。
創造性というのは、人と環境との相互作用によって拓かれていくものだと考えます。燕三条という地域資源の中にある三条市立大学という環境で学ぶことによって、長い歴史の一部として一人一人の創造性が多彩に花開く――そんな産学連携の成長を見ていきたいです。

Company Profile
玉川堂(ぎょくせんどう)[燕市]
1816年創業。以来、約200年にわたり鎚起銅器の製造を手がけ、海外博覧会での受賞、皇室献上の栄誉を受ける。現在では、国内唯一の鎚起銅器産地として技術を継承している。